石田衣良著/娼年 感想レビュー

読書感想

~~あらすじ~~

恋愛にも大学生活にも退屈し、うつろな毎日を過ごしていたリョウ、二十歳。

だが、バイト先のバーにあらわれた、会員制ボーイズクラブのオーナー・御堂静香から誘われ、とまどいながらも「娼夫」の仕事をはじめる。

やがてリョウは、さまざまな女性のなかにひそむ、欲望の不思議に魅せられていく……。

いくつものベッドで過ごした、ひと夏の光と影を鮮烈に描きだす、長編恋愛小説。 (単行本裏表紙より)

↓以下ネタバレありの感想です。↓

石田衣良さんの作品を読むのは初めてだったのですが、丁寧で繊細な文体に自然と物語に引き込まれていきました。

正直なところ、「娼婦」や「ボーイズクラブ」といった題材から少々とっつきにくいのかと思っていたら全然そんな事はなく、自然と世界観に没入していきました。

 

大学へは最低限出席、代返や授業のノートを女友達のメグミに借りるなどしてバーテンダーのアルバイトをしていたリョウ。

そんな彼が友人とバーに訪れた御堂静香によって娼婦の世界へと足を踏み入れていきます。

そして、女性1人1人それぞれの魅力や不思議、「欲」に引き込まれていきますが、友人メグミの警察への告発により最終的にはクラブは解体へと追い込まれてしまいました。

しかし、御堂静香、そしてその娘の咲良の残した顧客名簿などにより、リョウと同じ娼婦のアズマ、そして咲良と共にクラブを再開させる事を誓いこの物語は終わります。

 

「娼婦」といった題材から、やはり性交渉の描写は多々出てきますが、全く抵抗なく読めました。

物語は人々の欲や思想がたくさん出てきており、一見読みにくい、ドロドロとしたものを想像してしまいますが、全くそんなことはありませんでした。

むしろとても繊細できれいとさえ感じました。

 

低燃費といいますか、大学には行かず、かといって熱中している事もない主人公がどんどん娼婦の世界に魅せられていくのと同時に、こちらも一緒に物語の題名にもある「娼婦」の世界に引き込まれていくそんな物語。

最後のメグミの行動も、リョウを想っているからこそだと思うとその行動に少しだけ共感できたり……。

 

なによりリョウの意志を確かめるために、自ら御堂静香が運営するボーイズクラブへ連絡し、リョウを指名するところにはメグミの本気が感じられました。

友達だからこそ、好きだからこそ「娼婦」という仕事はしてほしくない、世の中で言う「日の当たる真っ当な仕事」をしてほしいというも彼女の望みも少しわかる分、警察への告発は何とも言えない気持ちになりました……。

気持ちの押し付け と言われればそれまでなのですが、それでもメグミのとった行動や想いを考えるとそうしたくなる気持ちも十二分にわかってしまう……。

 

ずいぶん前から集英社が夏に開催している「ナツイチ」などにも毎年のように取り上げられ、興味はあったのですが、題名や題材から正直読むのを避けていた部分はありました。

しかし、読了した今、なぜもっとはやく読まなかったんだ!?とい後悔さえあります。

 

とにかくきれいで繊細で、しかし情熱的で……。

ページをめくる毎、文章を1行読む毎に物語の世界に引き込まれ、物語の展開が気になって仕方がありませんでした。

 

読了した翌日に書店の開店時間と同時にこの物語の続きでもある「逝年」そして「爽年」を買いに行ってしまうほどには(笑)

こんなに続きが気になる!はやく続きが読みたい!となったのはとても久しぶりでなんだかその感覚が懐かしかったです。

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