~あらすじ~
その愛は、あまりにも切ない。
正しさに縛られ、愛に呪われ、それでもわたしたちは生きていく。
本屋大賞受賞作『流浪の月』著者の、心の奥深くに響く最高傑作。
ーーわたしは愛する男のために人生を誤りたい。
風光明媚な瀬戸内の島に育った高校生の暁海(あきみ)と、自由奔放な母の恋愛に振り回され島に転校してきた櫂(かい)。
ともに心に孤独と欠落を抱えた二人は、惹かれ合い、すれ違い、そして成長していく。
生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた著者が紡ぐ、ひとつではない愛の物語。
ーーまともな人間なんてものは幻想だ。俺たちは自らを生きるしかない。
(講談社BOOK倶楽部より)
↓以下ネタバレありの感想です。↓
まず読み終わって感じたことは「切ない」という感情でした。
お互い想いあっているのに、うまくいかない。
大人になるにつれ、どちらかの人生が良い方向に進めば、もう一方の人生が良い方向には進まない
という関係性になってしまったのは、とても歯がゆく感じました。
プロローグの部分から、とてつもなく明るいお話ではない事は薄々感じていましたが……。
あまりに切ない終わり方で読了後自然と涙が出てきました。
ただ、このお話は
暁海、櫂、先生、櫂の相方の男の子、愛人の女の人
それぞれの視点で見るとまた違った、それぞれの人生が見られて面白いなとも同時に感じました。
しかし、暁海と櫂の好き同士だからうまくいくわけではない。好きだからこそ言えないことだってある、思いあっているが故にうまくいかない。という部分はとてもリアルで、リアルだからこそ切なく、胸に突き刺さるものがありました。
暁海も櫂も違った意味で
「親」という存在に縛られていました。
そして、大人になってからも頼られ、縛られ、振り回されていました。
この「親」という存在もリアルで、すべての家庭が仲良く円満なわけではない。
時には親の行動が子供を無意識に傷つけてしまっているという事だってある。
という事実に改めて気づかされました。
この世に存在する全ての家族が、「良い親」「良い夫婦」「理想の家族」であるわけではない。
という目をそらしたくなるような事実には色々考えさせられました。
また、最後のエピローグ。
一見、プロローグに少し言葉を足したようにも見えますが、物語を読んだからこそ意味が分かり、伏線を綺麗に回収された一種の清々しささえありました。
それでも切ない事には変わりないのですが……。
人間関係には色々な形があり、ひとえに「大事な人」と言っても、「友人」「恋人」「家族」「お世話になった人」と色々あり、時には言葉では言い表せないような関係性だってある。
そして、大事だからと言って必ずしも傍にいられるわけではないし、一緒にいるわけでもない。
純粋さだけではないドロドロとしたものや、利害関係に基づいて構築されているものだってあるんだなと再認識しました。
この作品はとにかく人間関係とその関係性の変わり方が非常にリアルで、この本を読み終わった後、しばらく呆然としてしまいました。
このように書くと、全体的に暗いお話のようにも思えますが、暗いだけではなく、青春の美しさや好きだからこそどうしようもない葛藤、親子の絆について等様々なものが描かれており、暗く切ないけれどとても綺麗な作品でした。
大団円!全員が幸せを手に入れる!!ではないからこそリアルで共感できる部分が多く、だからこそ感情を大きく揺さぶられる作品でした。
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