青柳碧人著/むかしむかしあるところに、死体がありました。 感想レビュー

読書感想

~あらすじ~

昔ばなしが、まさかのミステリに!「浦島太郎」や「鶴の恩返し」といった皆さまご存じの〈日本昔ばなし〉を、密室やアリバイ、ダイイングメッセージといったミステリのテーマで読み解いたまったく新しいミステリ。「え!なんでこうなるの?」「なんと、この人が……」と驚き連続の5編を収録。数々の年間ミステリにランクイン&本屋大賞ノミネートを果たした話題作、待望の文庫化。

(文庫版裏表紙より)

一寸法師、花咲かじいさん、鶴の恩返し、浦島太郎、桃太郎

1度は聞いたことのある昔話がモチーフの短編ミステリー小説です。

まず、見たら絶対忘れないであろう表紙の絵は強烈に印象に残ります。

作品名や作者名を忘れても絵だけは絶対忘れないでしょう。(笑)

ちなみに、そんな素敵な表紙はイラストレーターの五月女ケイ子さんが手がけています。

 

お話自体は、元ネタの昔話を知っているからこそ騙されるミスリードや、意外な真相に終始びっくりしてしまいました。
ミステリーをあまり読まない人でも、元ネタの昔話を知らない人でも楽しめるそんな作品です。
短編小説のため、一つ一つの物語が読みやすく、また、トリックもお話ごとに違って読んでいてとても楽しかったです

以下ネタバレありの感想です↓

 

 

 

 

 それぞれの物語の所感

  • 一寸法師の不在証明
    ある意味シンプルな展開だけど、殺人トリックにはそうだったのか!?とびっくりさせられました。
    そして、このお話が1番読みやすいのかなと個人的に思います。
     
  • 花咲か死者伝言者
    このお話が1番恐ろしいまであります。
    人の欲や復讐心がおぞましく、最後の終わり方にはぞっとしました。
     
  • つるの倒叙がえし
    1つのお話で2つのお話が楽しめる作品。
    お話の最後に書かれたとおりに読み返すと全く別の、殺人なんて関係ないお話になるのが意外で、読了してないのに読み返したくなる作品。
     
  • 密室龍宮城
    物語の終わり方がとても美しい。
    しかしミスリードの数々には騙され、このお話も「復讐」がメインとなっています。
     
  • 絶海の鬼ヶ島
    読んでいて展開が1番衝撃的だったお話。
    読めば読む程世界観に引き込まれて最後の展開には度肝を抜かれました。

  

一寸法師の不在証明 (一寸法師)

1番衝撃的だったのは、一寸法師が犯人だった事です。

一寸法師こと堀川少将は打ち出の小槌を使い、殺人を行います。その後、殺されたとされる時刻にわざと鬼の腹の中に入り、戦う所を他の人に見せることでうまい事アリバイを作ります。

ですが、最終的には色々な人の証言や現場証拠を元に犯人とばれてしまうという展開でした。

題名に「不在証明」と書いてあったのと、最初から昔話の主人公(一寸法師)が犯人ではないだろう!という偏見からうまい事騙されました(笑)

本当に一寸法師が犯人だったなんて……。とてもびっくりしました。

 

花咲か死者伝言者 (花咲か爺さん)

「枯れ木に花を咲かせましょう」でおなじみの花咲か爺さんがモチーフのお話です。

物語は山をさまよっていた犬目線で語られていきます。

山から下りた犬は花咲か爺さんと出会い、一緒に暮らす事になりました。

しかし、一緒に暮らし始めて4日後の朝、お爺さんが殺されてしまいます。

捜査は難航しますが、次郎はお婆さんが犯人であることに気づいてしまいました。

元々、お婆さんは黄金やご褒美にしか目がなく、村に寄付をするお爺さんが邪魔だったのです。

そして、次郎を殺せば、以前飼っていた「しろ」が死んだ時と同じように、また黄金やお殿様からのご褒美がもらえるかもしれない。と考えたお婆さんは最終的に次郎にまで手をかけてしまいます。

しかし、次郎もただ殺されるだけではありません。

お爺さんの仇を討つべく復讐を決意し、死に際にお婆さんを殺すべく罠をしかけます。

 

このお話はこの本の中でも1番人や動物の怨念が感じられる作品でした。

お婆さんの殺人動機や、最後の次郎の復讐などとにかく読めば読むほどドロドロし、恨みや人の欲というものは恐ろしいものだと改めて感じました。

元の昔話が明るいイメージがある分、そのギャップがすごく、読み終わった後の衝撃はすごかったです。

つるの倒叙がえし (鶴の恩返し)

このお話も面白い所は、なんといってもお話が1~7に分かれており、すべて読んだ後、1へ戻り、3,5,7と読んでいく事で別のお話が楽しめるという所です。

 

普通に読むと、このお話も「人の欲」が描かれている作品でした。

しかし、お話の最後にある通り、1へ戻って指定の話だけ読んでいくと、とても良いお話になるところがすごく面白かったです。

昔話の鶴の恩返しと同じく、鶴が変身した女の人を一晩泊め、そのお礼に機織り機できれいな布を渡されるのは一緒です。

ですが、村の庄屋が殺されたり、布が高く売れ、段々と欲にまみれていったりと

このお話もまたドロドロした感じになっていきます。

 

殺人のトリックや死体の隠し場所なども、そうだったのか!と意外すぎてびっくりし、また、これだけ色々なトリックを考えられる作者様に脱帽しました。

 

やはり最後まで読んだ後、抜粋された箇所だけ読むことにより、全く別の人物視点の話になり、お話の内容が全然違う物語になるというトリックはとても面白く、このお話しだけ何度も何度も読んでしまいました。

密室龍宮城 (浦島太郎)

昔話の浦島太郎と同じく、浦島が亀をいたずら坊主達から救い出すところから始まります。

竜宮城へ行き、楽しみますが、おいせが何者かに殺されてしまいます。

このお話の面白い所はミスリードがたくさんある所です。

魚の成長(わかし→いなだ→ぶり)ネタも絡んできており、読んでいて誰が犯人なのかと浦島と一緒に推理している気分になりました。

 

事件が解決し、無事に陸へと戻った浦島は玉手箱を開けます。

その時に、全ての黒幕は亀であることに気づき、ここで全ての真相が浦島の推理によって語られます。

実は亀は河豚を追放した、おいせとヒラメへ復讐するために殺人を決行したのです。

ここでも「復讐」といったドロドロしたものが絡んできています。

 

タイトルから不穏な感じのお話なのは感じ取れますが、人の欲や復讐といったドロドロした感情が多く、何とも言えない恐怖をうっすら感じてしまいました。

どこで恨みをかっているかなんて分からないので。

 

ヒラメに罪を擦り付け、外界から来た浦島を竜宮城招き入れる事で捜査をより錯乱状態にした亀。そして真相にたどり着き、玉手箱により年を取ってしまった浦島。

浦島は焦燥し、このまま砂に還ってしまいたいと思ってしまいます。

ここで物語は終わるのですが、終わりの文章がなんと美しいこと。

 

“このまま砂に還ってしまいたい。何物でもなくなりたい。

太郎はそう思い、やがて、気が遠くなっていきました――。

 

 白い砂がまぶしい、静かな浜です。そこに、弱々しい一匹の鶴がいました。鶴は悲しげに一声鳴く
と、空へ飛び立ちました。寒空の青に去っていく、寂しい白。もう二度と、戻ってくることはないでしょう。

 あとに残るのは、誰もいない海辺の、誰もいない時間です。波はいつまでもいつまでも、寄せては返しているのでした。”

(本文より抜粋)

 

とても美しく、悲しい終わり方に真相への驚きが一気に吹き飛び、何とも言えない感情になりました。 同じくこの本に収録されている、「つるの倒叙がえし」の終わり方も面白かったですが、この短編集の中である意味1番美しい終わり方なのは、この密室竜宮城ではないかと思います

絶海の鬼ヶ島 (桃太郎)

1番衝撃的だったのは、桃太郎に討伐された鬼の残党達のお話かと思いきや、実はその中に桃太郎と鬼の子供(子孫)が紛れていたのは驚きでした。

鬼ヶ島の中で連続殺人(連続殺鬼?)が起きてしまうのですが、その桃太郎の子孫が連続殺人の犯人だったのには衝撃的過ぎていったん本を閉じてしまいました。(笑)

  

このお話もミスリードがたくさんあり、それに見事に騙されました。

桃太郎が鬼と子孫を作っていたなんて想像もできず、ただただお話の展開にびっくりさせられ、それと同時に作品にどんどんのめりこんでいきました。

  

お話の最後に全ての種明かしがされているのですが、説明されるまで全く気付かず、思わず舌を巻いてしまいました。

この衝撃的な展開と驚きは、ある意味隠し玉と言っても過言ではないくらい凄かったです。

読了後はその衝撃に暫く放心状態でした。

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