結城真一郎著/#真相をお話しします 感想レビュー

読書感想

~あらすじ~

子供が四人しかいない島で、僕らは「YouTuber」になることにした。でも、ある事件を境に島のひとたちがよそよそしくなっていって……(「#拡散希望」)。日本の〈いま〉とミステリが禁断の融合! 緻密で大胆な構成と容赦ない「どんでん返し」の波状攻撃に瞠目せよ。日本推理作家協会賞受賞作を含む、痺れる五篇。

(新潮社公式ホームページより)

この小説は

惨者面談、ヤリモク、パンドラ、三角奸計(さんかくかんけい)、#拡散希望

の全5編の短編小説からなっています。

それぞれの物語が繋がっているわけではありませんが、「緻密で大胆な構成と容赦ないどんでん返しの波状攻撃に瞠目せよ。」とあらすじにある通り、どの作品も最後のどんでん返しにはとてもびっくりさせられました……。

何より、物語の最後の最後まで真相が語られない部分は、まさに題名通りで読む手が止まりませんでした。

そして、物語の”その後”を考えられずにはいられない。そんなお話達でした。

以下ネタバレありの感想です↓

 

 

 

 

惨者面談

このお話で衝撃だったのは伏線がしっかりと書かれていない所です。

伏線がはっきりと書かれない事で、後半の怒涛のネタバラシは衝撃の連続でした。

 

物語は、家庭教師塾で営業のバイトをする大学生の主人公目線で進んでいきます。

主人公はいつも通り、家庭教師の詳しい話をする為、「矢野家」へ赴きます。

 

しかし、矢野家の母親と息子の悠(ゆう)くんの様子が少し気になります。

母親は頑なにゴム手袋を外しませんし、息子の悠くんはお試しテストの答えに全て“110”と回答する始末。

これには主人公も疑問に思います。

 

矢野家が目標としているのは「御三家」と言われる超難関中学校であり、前回の模試の結果から考えても適当にも見える回答はどう考えてもおかしいのです。

何より、模試の結果には「ヤノ ハルカ」とあるのに、母親はしきりに子供の名前を「ユウ」と呼んでいます。

そして、主人公がお茶をこぼした際に見たスリッパの裏にあった血痕を見て、主人公は母親が偽物だと気づきます。

もちろん、この段階ではここまではっきりとは書かれておらず、「テーブルの上にある書類に模試の結果があるじゃないか」や、「その時スリッパの裏面を確認する」などと書かれています。

 

主人公は上司に母親が偽物の旨を伝え、警察を要請します。

 

後日、矢野悠くんのお父さんと主人公が対面するシーンで全ての真相が語られていきます。

主人公が母親だと思っていたのは隣人の「桂田恵子」であり、矢野悠の母親は彼女によって殺され、矢野家のトイレに隠されていました。

 

そして、1番びっくりしたのは、矢野悠は半年前に交通事故で他界しており、矢野悠だと思っていた人物も偽物であったのです。

あの場にいた“矢野家”の住人だと主人公が思っていた人物は2人とも偽物、という展開には度肝を抜かれました。

 

もうラストのネタバラシが衝撃的過ぎて、見事に騙された!という感情しか出てきませんでした。

また、最初のお話からこれだけ衝撃的なのだから、他のお話はどんなのだろう……。とワクワクしてきました。

 

ヤリモク

娘がパパ活をしているのでないか、と妻に相談される主人公。

ですが、実はその主人公もマッチングアプリを通し、パパ活をしているという衝撃的な事実から物語は始まっていきます。

パパ活女子を狙った犯罪もある中、女の子のお持ち帰りに成功し、女性宅へ向かう主人公。

 

女性宅へ到着後、シャワーを浴びる主人公ですが、ある違和感に気づきます。

それは、シャワーヘッドの位置は女性が使うにしては高すぎる事や、朝寝坊してしまい慌てて家を出たと言っていた割に、片付いている洗濯物。

違和感をもちつつもリビングへ戻ると、そこにはたくましい体躯の男性が女性と一緒にいました。

女性の狙いはパパ活ではなく、マッチングアプリを使った「美人局」だったのです。

 

しかし、驚くのはこれだけではありません。

主人公も実は正体を偽っていた事がここで明かされます。

主人公の正体、それはパパ活女子連続殺人事件の犯人だったのです。

しかも、いままでに7人も殺しているという凶悪犯でした。

 

主人公の目的はただひとつ、それはパパ活女子が犯罪に巻き込まれる事で、娘に危機感を植え付け、パパ活を辞めさせる事でした。

いつものように女性と、口封じのために男性を殺し、彼女らのスマホを回収して念のため中を確認する主人公。

特に問題なさそうだと判断した時、男性のスマホに「今から部屋を使いたい」という旨のメッセージが届くところで物語は終わります。

なんとその送信主は主人公の娘だったのです。

 

主人公が実は殺人鬼だったことにも驚きですが、娘がパパ活ではなく美人局をしていたのにも驚きでした。そういう関係性だったのか、と。

1話目の惨者面談とは違う驚きがあり、読んでいてある意味ワクワクするお話でした。

途中まではパパ活をする娘と主人公という感じで、良い意味でたんたんと物語が進行していきます。

しかし、クライマックス直前の主人公の推理(シャワーヘッドの位置や片付いている洗濯物)や、怒涛のネタバラシ、最後の最後にくる娘の本当の目的。

 

全て知った後の衝撃はすごく、本を閉じてしばらくその余韻に浸ってしまいました。

 

パンドラ

精子提供した男、翼が主人公のお話です。

最後の最後に明かされる意外な真相にはある意味ぞっとしました。

 

主人公には妻との間に「真夏」という女の子がおり、真夏の明るさからとても円満な家庭であることが伺えます。

テレビの血液型占いで自身のAB型の結果を見て一喜一憂し、父親である主人公(A型)や母親(B型)の欄までチェックし、茶々を入れるある意味天真爛漫な感じの子です。

 

そんな家族3人で平穏に暮らしていたある日、以前主人公が精子提供し産まれた「翔子」から連絡がきたことで、とあるパンドラの箱を開けてしまう事になるのです。

 

それまで特に関わりもなく、連絡すら取ってこなかった翔子からのいきなりのメッセージに主人公は少々戸惑います。

もちろん、精子提供した際、「いつでも連絡してください。」と彼女の母親に連絡先は渡していたのでいつか連絡が来る可能性はあったのですが……。

「奥さん抜きの2人で(主人公と翔子)だけで話したい。」との申し出に彼は応じ、休日のカフェで会う事になりました。

この時点で何か起きそうな気配はしていましたが、最後に明かされる衝撃的な真相レベルのものだとは思ってもいませんでした。

 

翔子から話された内容は衝撃的なものでした。

まず、翔子の母親「美子(よしこ)」は連続幼女誘拐殺人事件の犯人、「宝蔵寺(ほうぞうじ)(ゆう)(すけ)」の婚約者であり、宝蔵寺が逮捕される前日の晩に性交渉に及んでいたという事。

そして、性交渉に及んだ翌日に夫が逮捕され、警察からの事情聴取やマスコミから逃げる生活をしていたらアフターピルが使える日数も過ぎ、かといって中絶する勇気はなかった。

そこで頼ったのが精子提供という手段。

精子提供してもらう事で産まれてくる子は殺人犯の血を引いていない、という可能性を残したかった。という事。

 

かなり危ない話にも聞こえますが、それだけ彼女も追い詰められていたのかなと感じました。

産まれてくる子が「殺人犯の子」になってしまうのは、母親としても辛いものがありますものね……。

はっきりと書かれてはいませんでしたが、彼女が主人公に精子提供してもらうと決めた1番の理由は主人公が夫である宝蔵寺によく似ていたからかなと思いました。

現に、宝蔵寺が逮捕された当初は同僚から疑われたとの描写があったくらいなので。

 

ここまでもかなりの衝撃的な事実ですが、さらに衝撃的な事実が明らかとなっていきます。

それは翔子の血液型です。

彼女の血液型はB型、そして、宝蔵寺はA型、母親の美子はO型。

そして、精子提供してもらった主人公はA型。

宝蔵寺の子でも、主人公の子でも生まれてくる可能性のない血液型だったのです。

 

ここで、美子が他に精子提供してもらった可能性や、他の人と性交渉に及んだのでは……?と思いましたが、そういった事ではありませんでした。

“宝蔵寺か主人公の血液型が間違っている可能性”

 

その可能性を考え、主人公に血液検査をしてもらいたいという翔子。

DNA検査はせず、血液検査だけしてもらい、主人公がB型だったら自分は主人公の子供だと思って生きていく、と。

 

そして、主人公は血液検査を受け、本当の血液型を知ることとなります。

主人公はA型ではなくB型であるという事が判明し、物語は終わります。

これにはとても驚きました。なんせ主人公がB型なら娘の真夏がなぜAB型なのか……。

もしかして妻も精子提供を受けていたのか、また、見方によっては違った可能性も……。

 

最初にあるほほえましい家族の描写が一瞬にして怖くなる展開でした。

タイトル通り、開けてはいけないパンドラの箱そのものでした。

この最後の真相が明かされることで、一気に物語が怖く、不気味なものへと変貌してしまう様には作者様のトリックには思わず舌をまいてしまいました。

 

三角奸計(かんけい)

まず冒頭から驚かされました。

物語は、「今からあいつを殺しに行く」という友人のメッセージとそれを止めようとする主人公の緊迫した描写から始まります。

そして、なぜそのような事になってしまったのか、過去の時間軸に戻り、語られていきます。

 

物語は主人公の桐山、そして桐山の大学時代の友人である茂木と宇治原のリモート飲み会を軸に進んでいきます。

 

物語の冒頭にも驚きですが、タイトルが三角関係ではなく「三角奸計」なのも気になりますよね。

奸計の意味が分からず調べてみたところ、

奸計とは、悪だくみ、悪いはかりごと

でした。

悪だくみと知って、読む前から「どんなふうに展開していくのだろう」、「この物語に隠されている真相は??」と気になってしょうがなかったです。

 

話の内容に戻ります。

大学の友人であり、それぞれ年を取り久しぶりに顔を合わせた3人。

茂木は結婚し3歳の娘がおり、宇治原も梅田へ転勤して遠距離ではあるものの、有村ほの香という婚約者がいます。

主人公はというと、マッチングアプリを介して出会ったミナミという女性とお付き合いのような関係にあります。

しかし、ミナミには仙台に転勤している婚約者がおり、もうすぐ結婚予定との事。

お付き合いというよりも、不倫のような関係性。

しかも、ミナミというのが下の名前なのか上の名前なのかすら分からない。

 

関係性が関係性なためか、茂木に「彼女は?」と聞かれた時にもうまく答えられず、濁すような形となってしまいます。

 

そんな世間話もそうそうに過去の話や、大学時代の知り合いの近況など段々と盛り上がっていきます。

そんな中、宇治原から主人公へ個人チャットが送られてくる所から物語は少しずつ動いていきます。

 

主人公に届いた衝撃のチャット、それは茂木の画面に時折女性が写っており、それは宇治原の婚約者だと言うのです。

婚約者につけたGPSアプリも茂木の家に向かっているとの事。

そして、冒頭にもあった「いまからあいつ(茂木)を殺しに行く」と言って茂木の元へと向かってしまいます。

焦る主人公に宇治原から「お前には送っておく」と婚約者の写真が送られてきます。

それを見て主人公はある意味違う恐怖を抱くのです。

 

宇治原から送られてきた写真に写っている女性、それは主人公が不倫のような関係にある“ミナミ”だったのです。

 

混乱する主人公。なぜならミナミとは今日も会う約束をしており、今こちらへ向かっている最中なのです。

 

宇治原が向かっている先は茂木ではなく、自分の家である事を確信する主人公。

そんな中、ミナミが到着し、開口一番彼女に問います。

ミナミという名前も婚約者が仙台へ転勤しているというのも嘘だったんだなと。

そう、主人公はずっと騙され、あろう事か親友の婚約者と不倫していたのです。

 

そんなさなか、どこからか宇治原が登場します。

これには驚く主人公とミナミ。

そして、宇治原から茂木と仕組んだ罠(真相)が明かされていきます。

 

この茂木と宇治原が行った作戦が見事で、読んでいてまんまと騙されました。

てっきり宇治原は大阪にいるものだと思っていたのに、まさか主人公のバストイレ兼用の浴室のバスタブでずっと息をひそめていたなんて……。

考えただけでぞっとしますよね。

 

この後、宇治原はさらに衝撃的な行動をします。

なんと、ミナミこと有村ほの香の喉を真一文字に切り裂いて殺してしまうのです。

ここで物語は終わりますが、最後に宇治原が言った言葉はリモートが主流になっているからこそ刺さるものがあり、考えさせられました。

そして、主人公はどうなってしまうのか……。

 

このお話もまた、読了後に物語のその後が気になる展開でした。

何より、怒涛のネタバラシ、そこからの緊迫感は読んでいて手に汗握り、読む手が止まりませんでした。

 

#拡散希望

コメント