~~あらすじ~~
記憶の片隅に残る、しかし、覚えていない「夢」。自分は何かと戦っている? ――製菓会社の広報部署で働く岸は、商品への異物混入問い合わせを先輩から引き継いだことを皮切りに様々なトラブルに見舞われる。悪意、非難、罵倒。感情をぶつけられ、疲れ果てる岸だったが、とある議員の登場で状況が変わる。そして、そこには思いもよらぬ「繋がり」があり……。伊坂マジック、鮮やかなる新境地。
(文庫版裏表紙より)
以下ネタバレありの感想です↓
この作品を読んでいる時にまず驚いたのが、小説の中に漫画のような挿絵がいくつも入っている事でした。
漫画と言ってもセリフや効果音などは一切なく、戦闘シーンや広場にいるハシビロコウが描かれていたりするだけのものです。
あとがきの部分で伊坂さんが「アクションシーンを絵やコミックのようなもので表現し、それを挟み込みたい、という願望も十年ほど前からありました。」
と触れられており、なるほどそういう事だったのかと感動しました。
小説と聞くと挿絵のないものを想像しがちですが、あえて絵やコミックのようなものを織り交ぜることでこんなにも新鮮で、次はどんなシーンなんだろう……。とワクワクするなんて驚きでした。
少し小説の内容に触れていきますが、製菓会社に勤める岸は商品への異物混入の件で議員である池野内征爾と知り合います。
そして、池野内と出会った岸は彼から不思議な話を聞かされます。
それは、
“夢と現実がリンクしており、自分達は一緒に怪物を倒している。”
という事でした。
岸は当初その話は全く信じていませんでした。何せ夢の記憶などなく、また、夢と現実がリンクしているなんて到底信じられませんでした。
しかし、彼らと共に夢の中で戦っているトップアイドルの小沢ヒジリと出会い、様々な体験をしていくうちに、池野内が言っていた事が本当だったのだと確信します。
そんな夢の中では広場にいるハシビロコウに指示を受けモンスターを討伐しに行きます。
しかも、その夢は現実の世界とリンクしており、夢の中で討伐に失敗すれば現実世界でも嫌なこと(火事や病原菌の蔓延など)が起きてしまう。
岸、山野内、小沢は夢の存在を知ってからそれとなく現実で起こった事を体験していくうちに夢の記憶が鮮明となります。
そして最後、なんとあのハシビロコウがボスとして登場してきます。
題名にもある「クジラアタマの王様」ですが、ハシビロコウの学名だそうです。
ハシビロコウが出てきた時、ここで題名が回収されるのか!と感動しました。
苦戦を強いられる彼らでしたが、何とかハシビロコウを倒し、新型インフルエンザの蔓延を食い止めることができ、最後は現実の世界でハシビロコウを見ているシーンで終わります。
作中でも言われていましたが、“夢と現実がリンクしている”という点、少し「胡蝶の夢」ぽいなと感じました。
どちらが現実で、どちらが夢なのか。はたまたどちらも現実かもしれない……。
以前、夢というのは別の世界に飛ばされている時の記憶だという説を聞いたことがあります。
もしそうだとしたら何だか面白いですよね。
“現実”を生きていると思いきや実は違う。この作品を読んで夢について色々考えてしまいました。
子供の頃にみた楽しい夢、大人になってからみた怖い夢……。それが実は現実だったと考えると嬉しいような少し嫌なような、なんだか複雑な気分になりました。
いっそ全て楽しい夢なら良いんですけどね(笑)
久しぶりに伊坂さんの作品を読みましたが、とっても面白かったです。
現実的に考えればあり得ないことが、身の回りで普通におきている
やはり伊坂さんの作り出す世界観は面白くて大好きだなと改めて実感しました。
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