本を読んでいると、時たますごく引き付けられる1文に出会う事があります。
ハッとさせられたり、考えさせられたり、なんだかワクワクしたり……そんな文を選んで集めてみました。
一部、1文ではないものがありますが、ご容赦ください。
「時間は一冊の本みたいなものだと考えてみたんです」
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明石さんは藍色の空を見上げながら語った。
「それが過去から未来へ流れていくように感じるのは、私たちがそのようにしか経験できないからです。たとえばここに本が一冊あるとしたら、私たちはその内容をいっぺんに知ることはできません。一枚ずつ頁をめくって読むしかないんです。でもその本の内容そのものは、すでに一冊の本としてそこにある。遠い過去も遠い未来もすべてが……」
森見登美彦著/四畳半タイムマシンブルース
感想(https://sugisanpo.com/130/)
「ああ、青春よ!青春よ!お前はどんなことにも、かかずらわない。お前はまるで、この宇宙の財宝を、独り占めしているようだ。
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(中略)お前の日々はかかり去って、跡かたもなく帳じりもなく、消えていってしまうのだ。さながら、日なたの蠟のように、雪のように。……ひょっとすると、お前の魅力の秘密はつまるところ、一切を成しうることにあるのではなくて、一切を成しうると考えることができるところに、あるのかもしれない。ありあまる力を、ほかにどうにも使いようがないので、ただ風のまにまに吹き散らしてしまうところに、あるのかもしれない。我々の一人々々が、大まじめで自分を放蕩者と思い込んで、「ああ、もし無駄に時を浪費さえしなかったら、えらいことができたのになあ!」と、立派な口をきく資格があるものと、大まじめで信じているところに、あるのかもしれない。
ツルゲーネフ著/はつ恋
感想(https://sugisanpo.com/15/)
「お前らが大好きな“多様性”って、使えばそれっぽくなる魔法の言葉じゃねえんだよ」
「自分にはわからない、想像もできないようなことがこの世界にはいっぱいある。そう思い知らされる言葉のはずだろ」
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「多様性って言いながら一つの御不幸に俺らを導こうとするなよ。自分は偏った考え方の人とは違って色んな立場の人をバランスよく理解してますみたいな顔してるけど、お前はあくまで“色々理解してます”に偏ったたった一人の人間なんだよ。目に見えるゴミ捨てて綺麗な花飾ってわーい時代のアップデートだって喜んでる極端な一人なんだよ」
(中略)
「差別はダメ! でも小児性愛者や凶悪犯は隔離されてほしい倫理的いアウトな言動をした人も社会的に消えるべき」
八重子の顔面にかかる髪の毛は、まるで斜線のようだ。
「俺はゲイじゃない。お前らみたいな、私は理解者って顔してる奴が想像すらしないような人間だよ。俺と同じ性的指向の人は、性欲を満たそうとして逮捕された。窃盗と建造物侵入容疑で」
八重子の表情が、書き間違いを葬るために引くような斜線によって、見えなくなる。
「お前らみたいな奴らほど、優しいと見せかけて強く線を引く言葉を使う。私は差別しませんとか、マイノリティに理解がありますとか、理解がないと判断した人には謝罪しろとかしっかり学べとか時代遅れだとか老害だとか」
補足:物語の登場人物である”諸星大也”と”神戸八重子”が対話するシーンですが、ここでは一方的に”諸橋大也”がしゃべっています。
朝井リョウ 著/正欲
感想(https://sugisanpo.com/242/)
「これだけの人間が生きていて、欲望の種類は無数にある。」
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だけど、すべてはどこかで誰かが試した形のバリエーションにすぎない。リョウくんのお客が発明したわけではない。それでも今この瞬間に、誰もが自分だけの欲望を生きている。そういう意味では、欲望に古いも新しいもないのかもしれない。みなオリジニナルの形で、その女性にしかないひとつきりのスタイルなのね。
石田衣良 著/娼年
感想(https://sugisanpo.com/478/)
弱々しい一羽の鶴がいました。鶴は悲しげに一声鳴くと、空へ飛び立ちました。寒空の青に去っていく、寂しい白。もう二度と、戻ってくることはないでしょう。
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あとに残るのは、誰もいない海辺の、誰もいない時間です。波はいつまでもいつまでも、寄せては返しているのでした。
青柳碧人 著/むかしむかしあるところに、死体がありました。
感想(https://sugisanpo.com/448/)